「私のことは忘れられてもいい。作品が、imageが、残ってくれれば」と彼女は言った

昨日、はじめての試み【歌と詩の朗読ライブ】が温かい雰囲気の中、幕を降ろした。はじめてのことばかりであったが、それが全て血肉になったような、貴重な体験だった。

ライブ中に覚えた様々な心境は改めて綴るとして。


2016年3月15日(火)、青山で行われた【本の場所】というイベントに参加した時のことを思い返ししたので、ここに再録しておこうと思う。

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著者本人が自作を朗読するスタイルらしい。私自身、数年前に朗読サークルに所属し、演出や自作朗読をしていたので”朗読会”が目新しくて行ったわけでは、ない。
以前から川上さんの作品に親しんでいたから、というのが参加を決めた大きな理由。彼女は初めての詩集が作家としての第一歩で、その作品は芥川賞の候補となった。その後に発表した、独特なリズムで語られる小説『乳と卵』で芥川賞を受賞し、それ以降ずっと第一線で活躍。幾つかの作品が翻訳され世界に広がっている。
私はこれまで【生きている小説家】にあったことがなかった。私は”小説家という生き方”に並々ならぬ興味を持っていて、【生の作家】に会える、しかもサイン会とかではなくて”少人数の朗読会”という超クローズドな場なら、いろんなことが起きるんじゃないかと期待して(もしかしたら直接お話ししたり、質問したりする機会もあるんじゃないかとワクワクしながら)でかけた。
小説だけではなくて、HPのブログやエッセイなども読んでいたので、なんとなくこういう人かな、という想像はしていた。写真でみる彼女はいつもオシャレで、意志の強そうなくりっとした目をしていて、自分の好きなことはやるけど関心のないことはまったく取り合わない、みたいな気まぐれで移り気な女性、という感じを得ていた。作家と読者としてではなく、普段の生活の中で出会っていたら、ちょっと苦手なタイプかも、とまで。
作品の文体やテーマも作品ごとに違っていて、いいなぁと思えるものもあれば技巧が立ちすぎて読みにくいと思えるものもあって、はてどんな人なのか感じてみようと呼吸を整えてその登場を待っていた。
(気取っていて気難しい感じだったら嫌だな)とちらりとよぎったイメージを裏切るように、入ってくるなり「こんばんは〜、わぁ、ありがとうございまぁす!へぇ、こんなに近い感じなんだ、今日朗読会、だよね。えっと、、、。朗読ってさ、どうなの?」みたいな感じで世間話みたいにどんどん喋って目があった人に話しかけて「朗読ってさ、いまいちよくわかんないんだ」なんて言っていたけど朗読を始めたらしっかり彼女の世界が出来ていて、朗読したりフリートークしたり質疑応答になったりとめまぐるしい進み方だったけどとても居心地が良かった。
写真や紙面上で見ていた彼女の装いから、感覚一本で文章を紡ぐ人かと思ったらそんなことないとわかった。どんな風に作品を作っていくか、何を感じながら作家として暮らしているか「普段はこんなことぜんぜん言わないんだよお」と言いながらもざっくばらんに語ってくれた。日々地道な”思考と執筆の実験”を繰り返して作品を生み出していることが分かり、彼女が語っている、読んでいる、質問者の話を聞いている、その佇まいを眺めているうちに、これまで読んできた川上さんの作品に対する解釈やイメージが塗り替えられ、その体験は深く心に刻まれた。
私も歌詞やネタを書くときは、自分だけの世界にこもって、どこに進んでいるのかまったく見えない狀態に陥りながらも、孤独を味わいながら、ひとり自分との会話を繰り返しているわけだけれど、そのもがいている感じは外側に見えないため、もやもやした感じを誰とも共有できないもどかしさがある。形を持っていないけれど確かに私の中に存在している何かを、どうやって外の世界に引っ張り出すか。どんな形にしたら伝わるのか。そもそも伝えたいのか、引っ張り出すことそのものに意味があるのか、などなど、いろんなことを私の体の中いっぱいに充満させて、その息苦しさに自分も身悶えながら、それでも何かを伝えたい気持ちが高ぶってしまう、その感じ。そんな曖昧な感覚を共有できた気がして、嬉しかった。
どんな風にパソコンに向かっているか、物語の輪郭を捉えるまでどんな気持ちで過ごしているか、力が足りないと悔しい思いを感じた時どう戦っているか、自分のことのように想像できてしまって、しばらく川上さんの言葉が入ってこない時間があった。
彼女がいかに真摯に作品に向き合っているかが、語られる言葉以上に立ち居振る舞いや声色から伝わってきて、それに触れることができたことにとても感動した。華奢な体のどこにあれほどの情熱とパワーが込められているのか。
帰宅してから、彼女の作品を再び読み返してみた。それまで感じなかった、彼女の息遣いが行間から立ち上がってきて、前より深く作品に関われるようになった気がする。
彼女が言っていた言葉で最も心に残っているのは
  
「私が死んだ後のことを考えるんだけどね。究極のことを言えば、私の名前とか忘れられちゃってもいいの。私の詩が、imageが、残ってくれれば」

といった言葉。
この言葉を聞いて、私この人好きだわ〜、と思った。
これまで「憧れの人や好きになりそうな人には、出来れば会いたくないなぁ。だってがっかりしたら嫌だし」って思っていたけど、会うことで得られる情報量の凄まじさを考えたら、会える人にはできるだけ会いに行った方がいいな、と思い直した。
そして、遠くない未来に、私も自作朗読会をしよう、と決めた。
伝えたいことは伝えたいと思っている鮮度を大切にして届けたい。
とってもいい体験ができた素晴らしい夜だった。忘れ難し。

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